オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

ハンドルを握りながら、ちょっとクラシックな気分 3

 この曲を、最初に教えてくれたのは、中学校の音楽の先生であった。授業中、先生は、なぜかオーケストラのプログラムについて語られ(当時 私は在籍していなかったのだが、神奈川県内の公立中学校には珍しくオーケストラ部があった)「ベートーベンの運命」「ドボルザークの新世界」(昔はドボルジャークとは表記しなかった)そして「メンデルスゾーンのバイオリン協奏曲」の三曲が、お客を集める三大プログラムであるかのように語られた。

 他のすべての名曲同様、この曲の美しさは、他のどの名曲とも異なる美しさであり、メンデルスゾーンその人をおいて他には、だれもこのような曲を書けなかったし書かなかった。私たちは、過去の歴史の中にこのような天才が生まれていたことに感謝の意を捧げつつ、今日もこの曲に耳を傾けているのである。

3.メンデルスゾーン バイオリン協奏曲 第一楽章 第二主題

 車の中で聴いている演奏は、パールマン独奏ハイティンク指揮アムステルダムコンセルトヘボウ管弦楽団によるものだ。

 バイオリンという楽器は、まずその音色の中に、人々の心を底なし沼の中へと誘う魔女のような魅力を湛えている。最近では、日本人の若手にも、すてきな音楽を奏でてファンを増やしている奏者がいる。最近筆者が間近で聴いた中では、神奈川フィルのコンサートマスターを務めている石田泰尚氏など、表現力が旺盛でとても好感が持てる一人だ。

 さて、パールマンパールマンの魅力を教えてくれたのは、大学時代の友人Sで、とにかくいいのだと言う。その後、数年して、藤沢市の市民会館にやってきたことがあり(なぜ、東京郊外の一地方都市に過ぎない市民会館が、世界のトップ奏者を招くことができたのか?よくわからないが)、生演奏に接することができた。

 バイオリン奏者特有の情におぼれ自己陶酔に浸っているような瞬間はみじんもなく、よどみなく濁りなく、どこまでも端麗に澄み切った音色をまっすぐに弾いていくその演奏スタイルは、私のバイオリン音楽に対するその後の聴き方を、あっさりと180度変えてしまった。

 そして、彼のつむぎ出す音楽が、純白の絹糸のように繊細でやわらかいメンデルスゾーンの旋律に、実にぴったりなのである。

 ところで、メンデルスゾーン。第一楽章377小節に、フルート・オーボエクラリネットが奏する第二主題「ソソソ シーラーソソ ミミミ ソーファーミミ ドドド ミーレド ミーレド ミーレド ソー」、この節の美しさ、切なさは、最近すっかり緩くなってしまった涙腺をじわりと刺激する。第一主題の外に向かって発せられる動きを「気持ちの向かうところに任せて、遍歴を重ねる人」に例えるなら、第二主題の有り様は、「彼女を実家で優しく待つ両親や家族の愛」とでも、言い表すことができようか?

 全曲どの部分を切り取っても美しく、こんな完璧な音楽を書いた人は、音楽史上他に思い当たる天才があと一人いるだけだ。メンデルスゾーンが「十九世紀のモーツアルト」と呼ばれたのも、まったく肯ける話なのである。曲が進み、第二楽章の冒頭537小節に出る「ミー ファレシ ラーソー ファミレラファ ミーレー ソドミレーシラ ソドミレーシラ ソドミソーミレ ドラファレー」も素敵だし、579小節から管弦楽に現れる旋律も物憂げで、実に美しい。

 渋滞で時間に遅れそうだろうが、割り込み車が前に突然進入して来ようが、そんな日常の些細なイライラを美しい音楽の中で瞬時に浄化してくれる、それがメンデルスゾーンの音楽の魅力なのである。