オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

ぼくの大好きな一枚のアルバム  

1 サイモンとガーファンクル「グレイテストヒッツ」

 出会い

 高校生の頃、辻堂の駅前にニューオデオンというレコード屋があった。若い夫婦二人で開いている店で、その後小学校の同級であるIもアルバイトで店員をしていたことがある。たびたび足を向けていたのは、中学以来ずっと同級であるTがジャズのアルバムを漁りに来るので、まるでお供のような感じで私もニューオデオンでは、顔なじみになってしまっていた。(ちなみにTは、アマチュア天文愛好家としても高名な人物である)

 しかしながら、音楽を聴くという文化がない当時の我が家庭にはステレオさえなく、従ってレコードを買っても小遣いをはたいて買ったポータブルプレーヤー(もちろんモノラル)で聴くしかない有様だった。

 そんな中で意を決して、初めて買ったLPはサイモンとガーファンクルのグレイテストヒッツだったのだ。アルバムセールスとしては、1970年に発売されていた「明日に架ける橋」が、とんでもないヒットを記録していたけれど、少ない小遣いを割いて買う身としては、1枚で代表曲のほとんどが聴けるベスト盤の方がお得感があったわけだ。

 ポールサイモンの話 1

 1960年代のポップスシーンを代表する二人組に今更何の説明もいらないのだが、改めてこの彼らの際だった特徴について考えてみよう。

 まず、ポールの音楽に対する貪欲なまでの先進性と深い詩についてである。何でも取り込んでいくポールの音楽は、インカ民謡「コンドルは飛んでいく」をアルバム「明日に架ける橋」で取り上げ、この曲の美しさを改めて、世界中に知らしめたわけだが、今ではだれもが知っているこのメロディーも、ポールがこのアルバムで取り上げる前、どれだけの人が知っていたのだろう?そして、ポールがソロとしての活動を始めた最初のアルバム第一曲、それは何とレゲエの「母と子の絆」である。(白人歌手として始めてレゲエを歌ったのは、ポール・サイモンらしい)アルバム「明日に架ける橋」とまったく違う曲の調べに多くのファンが腰を抜かす程驚いた事は十分に想像できる。

ここで35年余り時を遡り、思い出話に浸ることをお許し願いたい。実は「グレイテストヒッツ」のLPを購入する前に、S&Gのシングル盤を一枚買っている。B面に「フランク・ロイド・ライトに捧げる歌」が納められている「コンドルは飛んでいく」だ。友人のTなどは、この曲のサビをガーファンクルが歌い上げるところ=Away I’d sail away like a swan・・」でエコーをかけているのが気にくわないとか、ぶつぶつ評論していたが、私は私で高名な建築家であるフランク・ロイド・ライトを人気グループがまじめくさって歌っていることが妙におかしかった。

 しかしながら、結局はS&Gの世界の虜になってしまった私は、ポールのソロシングルである「母と子の絆」(B面はパラノイアブルース)や「僕のコダクローム」「アメリカの歌」「夢のマルディ・グラ」「母からの愛のように=ラヴ・ミー・ライク・ア・ロック」4曲が納められたお得なシングル?(その頃は、この4曲入っているレコードの呼び方を知らなかったわけで・・・)を買ってきた。しかし、そこから聞こえてくる音楽は、「コンドルは飛んでいく」や「グレーテストヒッツ」に納められている名曲の数々とは、何とも違う雰囲気のもので、ポールは常に変化を求め成長していくソングライターであることが、高校生であった私にもよくわかったのである。ポールが、その後も現在に至るまでとどまることを知らないかのように、新たな音楽を追究し続けているのは、ご承知の通り。

 変化と成長と言えば、かのビートルズもその活動期間=8年間を通じて飛躍的に「変化と成長」を成し遂げたグループである。それはデビュー曲である「ラブ・ミー・ドゥー」と最後に発売されたシングル「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」の違いを比べれば、すぐに理解できることだろう。しかし、この急激な変化はポール・サイモンのそれとは、少し違う。ビートルズの場合は、変化がファンにある程度は予想可能だったのある。特に「ラバー・ソウル」以降、そこいらの並みの人気グループとは違う音楽性を徐々に開発し始めた彼らは「リボルバー」「サージェント・ペパーズ」でポップシーンの頂点に立つのだが、その変化の様子は、線にして辿ることがある程度可能だったと思うのだ。それに引き替えポール・サイモンの場合は、音楽的に前作との脈略があまりない。まったく自由奔放に世界中の音楽を食べ尽くしては、それを自分の血なり肉なりに変えて、新しい音楽を創造するエネルギーに変えているかのようなのだ。

 その後の「時の流れに」や「グレイスランド」などを経て現在に至るポールの遍歴は、いずれ項を改めて時間をかけて語ってみたいと思う。