オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

「さくら」を愛で、「さくら」を歌う。 3

 コブクロ「桜」

 人気男性デュオ「コブクロ」には、レコード大賞を受賞した「蕾」を初めとして、叙情的な曲が多い。彼等のデビュー曲である「桜」も、桜の花びらが舞い落ちる世界に、聴き手をいざなう美しい曲だ。

 小生は、小学校の教員を務めているが、この曲を教えてくれたのは、子ども達であった。数年前になるが、ちょうど卒業式が間近にせまったある日の学級会。卒業生を送る集会で何を歌おうか?という話し合いが行われていたのだが、そこで出てきたのが、コブクロの歌う「桜」だったのである。

 この曲の成立は、コブクロがまだ「小渕」「黒田」にしか過ぎないコブクロになる前、大阪は堺市の街頭でそれぞれがストリートライブミュージシャンをやっていた頃に遡るという。互いの存在を知った彼等が、二人で初めて演奏した曲、それがこの曲「桜」であった。歌う彼等の周りは、すぐに黒山の人だかりができたと言う。聴衆から「この曲は、あなた方のオリジナルか?」という質問が出たとき、あまりの反応のすごさに小渕は、思わず「ミスチルのインディーズの頃の曲です。」と答えてしまったと言う。
 そうコブクロのサクセスストーリーは、この「桜」から始まったのだ。

Woo Woo Woo Woo Woo- Woo-

 名もない花には名前を付けましょう この世に一つしかない
 冬の寒さに打ちひしがれないように 誰かの声でまた起き上がれるように

 土の中で眠る命のかたまり アスファルト押しのけて
 会うたびにいつも 会えないときの寂しさ
 分けあう二人 太陽と月のようで

 実のならない花も 蕾(ツボミ)のまま散る花も
 あなたと誰かのこれからを 春の風を浴びて見てる

 桜の花びら散るたびに 届かぬ思いがまた一つ
 涙と笑顔に消されてく そしてまた大人になった
 追いかけるだけの悲しみは 強く清らかな悲しみは
 いつまでも変わることの無い
 無くさないで 君の中に 咲く Love・・・

 Woo Woo Woo Woo Woo- Woo-

 街の中で見かけた君はさみしげに 人ごみにまぎれてた
あの頃の 澄んだ瞳の奥の輝き
 時の速さに汚されてしまわぬように

 何も話さないで 言葉にならないはずさ
 流した涙は雨となり 僕の心の傷いやす

 人はみな 心の岸辺に 手放したくない花がある
 それはたくましい花じゃなく 儚(ハカナ)く揺れる 一輪花
 花びらの数と同じだけ 生きていく強さを感じる
 嵐 吹く 風に打たれても やまない雨はないはずと

 桜の花びら散るたびに 届かぬ思いがまた一つ
 涙と笑顔に消されてく そしてまた大人になった
 追いかけるだけの悲しみは 強く清らかな悲しみは
 いつまでも変わることの無い
 君の中に 僕の中に咲く Love・・・

 Woo Woo Woo Woo Woo- Woo-

 名もない花には名前を付けましょう この世に一つしかない
 冬の寒さに打ちひしがれないように 誰かの声でまた起き上がれるように

曲は、WooーWooーときれいにハモった三度のコーラスから出る。第二連の「太陽と月のようで」までは、静かに、さほど大きな起伏も見せずに進むのだが、その後「実のならない花も」でキーを突然長三度下に転じる。Cで歌い始めたとすればA♭に転じるのだ。転調には、いろいろな手法があるが、その前に予め転調を予感させる次の属調を使う場合がある。例えば、A♭に転じるならば、その前でE♭を使っておくとか・・。

 しかし、小渕はそんなまどろっこしい細工はしない。CからいきなりA♭に進むので、聴き手は、それまで淡々と静かに進んでいた道が、いきなり段差のある階段に出会ったように、目を覚まされるのだ。ここで意表をついた進行を使っているのは、大正解で、いよいよサビの「桜の花びら散るたびに」へ進むときは、セオリー通りG7→F→G7→C と安心できる道を辿るので、聴き手の気持ちは『待ってました!』となるのだ。

 曲は、何度か同じ旋律をなぞる。サビがとても素敵な旋律なので、そのまま終わってしまっても何の不思議もないはずなのだが、曲は、最後に『実は、もう一度この言葉を伝えたかったんだよ。』とでも言うかのように、最初の二行を繰り返して終わる。「誰かの声で また起きあがれるように」と。 

この曲にまつわるエピソードの一つに、メジャーリーグにチャレンジしていた桑田真澄が開幕前に怪我をしてしまった時、PL学園時代からの親友清原和博が、この曲のCDを贈ったという話がある。清原は、長渕剛がお気に入りなことで知られているが、おそらくは、コブクロの歌詞の「また起きあがれるように・・」に対して感じるところがあったのだろう。曲を贈られた桑田は、いたく感動したという話。

 学級会でこの曲を選んだ子ども達、リハビリ中の桑田投手にCDを贈った清原和博、共通する想いは「桜が舞い散る季節、新たなる出発を控えた季節に、後輩として友として、歌に託して心の底からエールを送る気持ち」だろう。