演奏会に行きたいのに、その日には別の予定が入ってしまって・・・そんな悔しい思いをされた方は、多いはず。ところが世の中には、実に心が広い演奏団体があり、何とゲネプロを公開してくれると言う。ちなみにゲネプロとは、ゲネラル。プローベの略で、直訳すれば「全体練習」。公演前の最後の通し稽古と思えばよい。
この寛容な団体は、横浜シティオペラ。演目はドニゼッティの「愛の妙薬」で、10月29日神奈川県民ホールでのゲネプロを聴かせていただいた。中に入ると2階席で聴いてほしいとのこと、県民ホールの2階は3階席が頭上にはみだしているため、ホールの「鳴り」が直には感じ取れないところが少々難である。そこで上に張り出しがない左の一番角に移動して聴かせてもらうことにする。当日、公開ゲネプロに来ていた客?は多く見積もっても20名足らず。営業上あまり大々的に広報する訳にもいかず、難しいところなのだろうけれど、感受性の豊かな中学生や高校生に公開すれば、きっと日本のオペラファンの増加に貢献すると思われるのだが。
「愛の妙薬」と言えば、いかがわしいインチキ医者に翻弄される青年ネモリーノの気持ちに沿って、物語が進行していく。彼のもどかしいほどシャイな性格と、純朴な愛が実に微笑ましく、心温まるのだが、この役は「King of HighC」として一世を風靡したテノール歌手パバロッティの当たり役である。中でも「人知れぬ涙」は、テノールのアリアとしては、名曲中の名曲で、単独で取り出して演奏されることも多い。
もう一人「愛の妙薬」で私たちが忘れてはならない歌手の名前を挙げよう。不世出の名テノール、山路芳久。彼もネモリーノを歌っていたのだ。山路芳久こそは、日本人として初めて海外の主要歌劇場(ウィーン国立歌劇場)の専属歌手として主役を務めた人。、あまりに若すぎた彼の死は、今もってなお惜しまれる。
ダブルキャストが組まれている本公演でのネモリーノは、倉石真。ゲネプロということもあるだろうが、尻上がりに調子をあげ、終盤の「人知れぬ涙」は、ホールいっぱいに美声が響き渡り、絶品!