オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

Allegro気分で行こう!、3

 僕のコダクローム

 トライエックスやコダクロームなど、フィルムの質にこだわっていた写真愛好家の熱い思いを、デジカメ全盛時代の今どのように伝えたらよいのだろう?

 子どもの頃、初めてカメラを手にしたのは小学校6年生、日光へ修学旅行に出かける時だった。親父が「これを持っていけば?」と貸してくれたのが、二眼の、まるで写真屋が記念写真を撮す時に使いそうな代物だった。フィルムも当時はほとんどが35mmサイズだったのに、シックス版という大きなフィルムを使うカメラで、何だか随分ご大層なカメラを持って、日光へ出かけたものである。

 まだ、モノクロ写真の時代の話である。思えば、写真がカラーに変わり、ビデオカメラが普及し、ベータとVHSの競争があり、デジカメが登場し・・
ケータイとカメラが一体化し・・いやはや、大変な技術革新の時代に生を受けたものである。

 ポール・サイモンの「僕のコダクローム」がヒットしたのは、1973年の話。まだ35mmフィルムが写真界のメインストリートを闊歩していた頃の曲である。それにしても、曲のタイトル!世界最大のフィルムメーカーに「この曲をCMに使わないで、いったいどの曲をCMに使うのですか!」と言わんばかりの勢いである。ただ、曲の中には本邦が世界に誇るカメラメーカーニコンの名前(ポールはナイコンと発音している)も登場し、コダック一辺倒の内容になっているわけではないのだが。

 S&G時代のヒット曲は、一つ一つの言葉をゆったりと語りかけるように歌う曲や、叙情的で美しくやわらかい旋律を二人のハーモニーで紡いでいく曲が多いように感じる。「明日に架ける橋」「スカボローフェア」「サウンドオブサイレンス」然りである。無論軽快な曲を避けている訳ではない。(彼等が、トム&ジェリーという名前で、初めて出した曲はアップテンポの快活な曲)結果的に、大ヒットした曲に上のような傾向が感じられるというそれだけの話である。

 S&Gが解散してしまい、ソロになってからのポールは、意図的にアート・ガーファンクルといっしょに作ってきた音楽世界とは、別の世界を開拓しているかのように新しい音楽を切り拓いていく。たとえ話が多くて恐縮だが、同じポールでも、元ビートルズの方のポール(マッカートニー)が、ソロになってからもビートルズ臭を漂わせながら、ヒット曲を量産していったのとは、対照的である。(それは、ビートルズの音楽性が、ポールの才能によって支えられていたことの反証にもなるのだろうが)

 ソロになってから二枚目のアルバム「ひとりごと」の冒頭を飾るのが、「僕のコダクローム」。日本でも当然のようにコマーシャルに使われ、多くの人々の耳にソロになったポールの歌声が記憶された。このアルバムの中には「Love Me Like a Rock」のように、ご機嫌なAllgroで歌われる曲が含まれている。

「ま、難しいことは抜きにして、機嫌良く行こうじゃないの!」とポールから肩をポンと叩かれて、リラックスした気分が味わえる。「僕のコダクローム」は、僕にとってそんな曲です。