オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

多田武彦 男声合唱組曲「雨」を歌う 1

 You Tube等のメディアにより。映像や音声が世界中で共有化される時代になっても、ある特定ジャンルに関心を抱く者にとっては「神」に値するような存在であっても、その他大多数の人間には、広く認知されていない才能のあり方がある。
 多田武彦という稀代の天才にも似たようなことが言えそうである。我が国の合唱、とりわけ男声合唱の世界においては、比肩するもののない巨大唯一な存在である。しかし、彼の名が広く一般に周知されていないのは、彼の創作が、ほとんど無伴奏曲かつ男声合唱曲と、その作曲作業の範囲を極めて限定的に絞り込んでいることも一因であろう。
 さて、男声合唱の愛好家であれば、誰しも彼の曲を歌うか、または曲を聴いたことがあるだろう。その経験を有さない者は「モグリ」のそしりをもはや免れない。処女作、初期の「柳河風俗詩」「富士山」の時代から、半世紀以上に渡り、私たち男声合唱愛好家は、彼の曲を歌える幸せをどれだけ享受してきたことだろう。
 私自身の履歴(遍歴?)を辿っても、「蛙」「木下杢太郎」「富士山」「雨」「柳河風俗詩」「追憶の窓」「雪と花火」「中勘助」「雪明りの路」「東京景物詩」「優しき歌」「尾崎喜八」を、自身で歌うか、または指揮をしてきた。しかし、これらは、膨大な多田武彦作品群のほんの一部にしか過ぎないのである。
 今回、所属する合唱団で「雨」を歌った。多田作品の中でも五指に入る人気作品であろう。私にとってこの「雨」を歌うのは、2回目である。前回は、30年以上前の学生時代に遡る。当時私は、バリトンだったのだが、今回のパートは、トップテナーである。年を取ってからパートが高音域に移るのは、自然の摂理に逆行しているようであり、我ながら少々可笑しい。
 同じ作品をパートを変えて歌う経験を有する人は、それほど多くないであろうから、複眼的?な経験から、この作品を歌う楽しさと困難さについて、語ってみようと思う。