オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

多田武彦 男声合唱組曲「雨」を歌う 6

雨の日にみる

 叙情的なしっとりとして佳曲だが、感情的に耽溺していると、音程がずるずる下がって収拾がつかなくなってしまう。まず冒頭「ふゆ ほのぐらい あめの日は」 の「あめの日」のレシシソミー が正確に下がれない。その後の「ざぼんが かがやく」 も妙に上がりきれずに歌ってしまうので、このフレーズの最後が、きちんとしたCdurにならない。
 もう一箇所の難所は、「ぽっかり ざぼんの うかぶのを かがやくのを」
の音程が、ぐにゃぐにゃして一本になりきれないことが、ままある。
 音程に難渋する部分を指摘したのは、やはりこの曲の生命線が、美しい詩と旋律線にあるからである。旋律がしっかり決まらなければ、このように美しい曲を書いてくれた多田先生に申し訳が立たないではないか!

 詩について少々語ろう。「朱欒」を見つめていた詩人の心は、やがて周囲の風景、すなわち雀、人間の後ろ姿、引きつっている電線、枯れ木などへと視線を移していく。そして、凍えている自分の体、祈りを忘れている己の心を見つめていくのである。
 この視点の移動が、実に自然で詩人と共に、いつしか自分も冬の雨の中に立ち、己の心を見つめていることに気づくのである。