オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

編曲の達人たち2「展覧会の絵」の場合

 ネプチューンの司会進行で「なるほど珍百景」という驚きの風景を、日本各地から集めて放映している番組がある。その中に、珍百景に画面が近づいていく時の音楽が、表題の「展覧会の絵」から「キエフの大門」の後半部分である。
展覧会の絵」という組曲は、作曲者ムソルグスキーの友人で、急逝した画家・建築家ハルトマンの遺作展から受けた印象から作曲された曲だ。一枚一枚の絵が、それぞれ個性的なようにムソルグスキーの曲も、一曲一曲が実に特徴的である。また、展覧会場をゆっくり歩く様子が「プロムナード」という曲で描かれており、それもまた大変有名な曲として知られている。
 ここで、私たちは日常この組曲を、オーケストラで聴いていることに、何の疑問も感じていないのだが、実は、ムソルグスキーの残した曲は、ピアノ曲であったのだ。しかも作曲者の生前には、一度も演奏されることが無かったのである。その楽譜を世に送り出したのは、リムスキー・コルサコフの功績である。もちろんピアノで演奏する楽譜として、コルサコフ自身があちこち手を加えたものが出版されたわけだ。
 ピアノ曲は、その後原典版を始めとして、様々な編曲が試みられているが、ピアノでお聴きになった方は、少々荒削りな骨太な音楽であり、管弦楽版とは随分印象が異なることに気づかれることだろう。
 さて、そのピアノ曲は、今日最も演奏される機会が多い管弦楽版に編曲したのが、「オーケストラの魔術師」と呼ばれたモーリス・ラヴェルである。
プロムナード」の出だしが、トランペットで柔らかく奏された時から、この曲は、作曲者ムソルグスキーの手のひらを飛びだして、ラヴェルのポケットの中に納まってしまっている。
 管弦楽版については、その後ラヴェル版で「決まり!」というように、ほとんどのオーケストラが、この編曲で演奏し続けている。それだけ編曲の技法が卓越しているとの証であろう。
 1970年代の前半、まったく違う方向から、この曲の演奏を試みたグループがある。プログレッシブ・ロックの「エマーソン・レイク&パーマー」である。シンセサイザーハモンドオルガンを駆使した彼等の演奏は、新鮮であり、ロックの名盤を指折る際には、必ず名前が挙がるアルバムになっている。とりわけ、この演奏(編曲?)で驚かされるのは、この録音がライブであるということである。つまり、即興性を保ちながら、かなり高い技術で演奏が展開されているわけで、クラシック音楽とアプローチは異なるが、独自の試みとして記憶に残る演奏である。