シーシャンティーは、ロジェ・ワグナー合唱団の演奏を始めとして、様々な男声合唱団の演奏会を通して聴いてきたのだが、船上で働く男の様子が何となく想像でき、美しい旋律が耳に心地よく響くことから「男声合唱のレパートリーには、最適なジャンルの一つ」程度の認識しかなかった。
しかし、歌とりわけ人々の生活の奥深くに入り込んでいる音楽には、必ず歴史的。地理的な背景があるものだ。
「I've got six pence」この調子のよい歌詞と旋律の繰り返しは、実はマザーグースの歌「I love six pence」に由来するという。そう言えば学生の頃歌った「Drummer and cook」もマザーグースの歌との関連が認められそうである。シーシャンティーが英国海軍の水兵や同国商船の水兵によって歌われていたことが改めて思い起こされた。
「Shenandoah」実はこの歌は、まだ合唱に関わる以前、高校生の頃だったろうか?キングストントリオによるフォークソングとして聴いていた。やがて、シーシャンティーという海の男たちの歌として、私の前に再登場するのだ。
「シェナンドーには、恋したインディアンの娘がいる。」とか「シェナンドーからインディアンの娘をさらってきた。」とか様々な歌詞が付けられているが、どうやらこの歌には、シェナンドーから数千キロ離れたミズーリへと強制移住させられたインディアンの辛い歴史が横たわっているようである。そうすれば、キングストントリオが「民衆の歌=フォークソング」としてレパートリーに採り上げていた理由も頷ける。アメリカという巨大な国ができあがる過程で、忘れてはならない人々の思いが込められた曲の一つなのである。