先輩 最近、第九に出たんだって?
私 はい、家族に誘われてね。それに区内の第九がしばらく実施でき
ないという噂を聞いたので・・。
先輩 家族に誘われ?夫婦共演てか?仲睦まじいことで。へっ!このブ
ログはいつから、のろけ話を聞かされるようになったんだい?
私 そんなわけじゃないけど、今回出ていて、一つ感づいたことがあ
るんだ。
先輩 何を?
私 例のすさまじい音と共に四楽章が始まるでしょ。
先輩 それでしばらくは、それぞれの楽章の主題が演奏されるが、すべ
て打ち消されてしまう。
私 でも。やがて待ちかねたように低弦から「歓喜の主題」がきこえ
てくる。
先輩 フルトヴェングラーなどは、かすかなppから始めて、すごい緊
張感を演出していたけれど。
私 それからしばらく木管が美しい対旋律を奏でたり、これはこれで
とても美しい部分を経て、全合奏になるでしょ。
先輩 1stバイオリンが主旋律を初めてとる部分もいいところだね。
私 この間、合唱団はうしろで待ちぼうけ。
先輩 そりゃそうでしょ。出番がないんだから。
私 気づいたのは、この待ち時間の意味なのですよ。
先輩 ?
私 これだけ美しい音楽を一楽章から延々と続けてきて、それでも人
の歌声でなければ、表現できない、伝えられないものがあるからこ
そ「合唱付き」になったわけで。
先輩 それが第九の価値そのものでしょ。
私 この待ち時間の間は、合唱団が「歌」という表現方法に、もう一
度覚醒する時間なのだ・・と気づいたのですよ。
先輩 何か偉そうなことを言い出すと思ったら、何のことやら。
でも、眠りこけそうになりながら「フロイデ」と歌い始めるより
は、いいかもね。