オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

権威という不可視な圧力に弱い。それもある程度の努力に裏打ちされて築き上げられた権威となれば、なおさらである。例えば、会社の経営者という権威は、日々課題に向き合い奮戦努力を続けておられる姿に敬意を払ったものであるし、「学歴」という実社会では、その効果が怪しくなりつつある権威も、少なくともその学校に入学するために本人が費やしてきた努力の積算を想像すれば、やはり圧倒される思いがつきまとう。まあ、自分自身が大した努力もせずに今日までのほほんと生きてきてしまったことへの後ろめたさも劣等感の背景にあるのかもしれないが。
私立開成高校といえば、受験界では泣く子も黙る東大進学者数ナンバーワンの超名門校である。本書は、開成高校の野球部を取材して、その不可思議な練習方法の紹介や部員たちのかなり理屈っぽい話っぷりによって構成されている書物である。弱くても勝てますというタイトルは、他校の野球部にも通用するマニュアルが開成高校にあるのではなく、おそらくは開成高校の野球部でしか通用しないであろう監督と部員のやり取りの中にあるのである。
とりわけ生徒諸君と筆者の不思議なやり取りが面白い。通常の会話では、まず入り込まないであろう路地裏にどんどん迷い込んでしまい、挙句の果てに、袋小路から抜け出ることができなくなってしまったような会話が随所にある。テストにおいて常に正解を探り続けてきた若者たちが、結果的にどのような言葉で自己表現するかという好例に思えるのだ。
話の後半でOBの方が語られていた「野球はグラウンドがすべて、挫折感は将来絶対生きてくる」という言葉が、彼等が野球を通して学んでいるものを端的に言い当てていたように思えた。