オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

吉田茂 ポピュリズムに背を向けて を読む

吉田茂 ポピュリズムに背を向けて を読む

ほとんど意味は同じなのに、言い換えただけで印象が180度変わる言葉がある。例えば「硬骨漢と意地っ張り」「天真爛漫・破天荒とわがまま」。どちらの言葉を使ってもそれなりにその振れ幅の大きな人柄の一部を切り取ることはできるだろう。そんな人間臭さというか、憎めない人柄とでもいうかを持ち合わせていたのが、本書の主人公吉田茂その人である。これだけの大政治家でありながら、偉人にありがちな聖人君子的な評価とは、一線を画している理由も本書を読むとかなり理解できる。

上巻は、戦争終結に至るまでの外交官としての履歴を中心に書かれている。中でも駐英大使時代及び開戦前夜の日本において、戦争を押しとどめようとした彼の動きは、軍部や憲兵に睨まれ命を賭しての行動であったろう。事実憲兵にしょっ引かれ刑務所暮らしを送る羽目になるのだが、信念と実行の人=吉田茂の前半生を貫いていたものが、戦争回避であったことを本書は教えてくれる。
近隣諸国との関係が、あまりよろしくない昨今、外交力とは?外交の目的は何か?を語りかけてくれるようでもある。

下巻は、総理となり、GHQと渡り合いながら、サンフランシスコ講和条約つまり日本の独立に向けての文字通り獅子奮迅の大活躍が語られる。単独講和、日米安保についての判断は、当時から現代に至るまで評価が二分している。とりわけ沖縄県基地問題周辺諸国との領土問題が大変ナーバスな状況に陥っている現在、独立国日本の再出発は、如何なる立ち位置から動き出したのか?を、吉田茂動線を辿りながら振り返ってみることは、有意義な作業だろう。
皇室を尊敬し多分に貴族趣味で、英米かぶれのかなり保守的な自由主義者であったワンマン宰相が、日本の歴史上最も困難な時代にあって、我が国を独立へと導いてくれた功績は、やはり語り継いでいかなければならないだろう。なぜなら戦後日本の原点は、彼の足跡の中にこそあるのだから。





iPadから送信