オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

三浦しおん「風が強く吹いている」を読む

三浦しおん「風が強く吹いている」を読む

若き日の沢木耕太郎のルポが、そして二宮清純の一連の著作が語るように、ノンフィクションだからこそリアルに語り得るスポーツの世界がある。「巨人の星」が描いた世界は、どこまでも所詮絵空事であることを承知で少年たちは熱中したのだ。スポーツは、そこで現実に起こっている事実そのものが人間ドラマなので、文字によって表現した時に、現実を超える感動を読者に伝えるのは、並大抵の筆力では及ばないところだ。
箱根駅伝という大学生による一大イベントをテーマにした本書にも、上記の制約は当てはまる。登場人物の設定、筋書き、心理描写において作者の用意が周到であったことはよく理解できる。またランナーがあれだけの苦しみを味わいながら、求めて続けている真実への言及こそが本書のテーマであるとすれば、それもよく書き込まれている。
蔵原走と清瀬灰二の出会いにストーリーは始まり、この二人を中心に竹青荘の住人たちが箱根駅伝に巻き込まれながら、話は展開していく。「もっと速くよりもっと強く。」をはじめとして、結局目前の勝利やタイムという結果より、一ランナーとして何を求めて走り続けるのか?その問いを人生のランナーである読者個人が己の課題として考え始めた時に、本書は読者にとって単なるファンタジーではなく、希望の書となるのだろう。





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