オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

木田元「反哲学入門」を読む

木田元「反哲学入門」を読む

哲学と聞けば、言葉がややこしく難しいとか、とりあえず今すぐに必要なわけではないとか、現実の生活に結びつかないとか・・・、多くの人が抱くイメージに「どこか自分から遠いところに置いておきたい話題」という偏見がないだろうか?そこで本書は、そのような哲学から日頃遠い生活を送っている人にも有難いことに口述筆記をもとに原稿が起こされている。したがって同類の書に比べて、とても読みやすく巻末で三浦雅士さんが本書を演奏に例えていることも肯ける。
改めて紹介するまでもなく、木田元氏は、日本におけりハイデガー研究の第一人者であった。だからニーチェ登場以降は、さぞかし思う存分に語りたいだろうに、全体の中での割合は抑制されている。むしろ古代ギリシャソクラテスプラトンアリストテレスデカルト・カント・ヘーゲルの近代哲学トリオの方が、分かりやすくていねいに語られている感じだ。それと言うのも「反哲学」の前に、反の対象である「西洋哲学」の本質を語っておかなければならなかった事情があるのだろうが、それが同時に本書を格好の哲学入門書としている。
また、「つくる・うむ・なる」の論理を説明するくだりで、丸山眞男が登場したり、明治初頭の哲学輸入期を象徴する人物として福沢諭吉が出てくるのも興味深い。二人共いわゆる哲学者として名を成した人ではないのだから。実に自由な人選である。哲学が大学の先生によって語られ始めてから言葉が難解になったという木田先生の立ち位置や視線が、これらのことからもいつも広く開かれていたことが想像できる。
個人的には、西洋哲学のちゃぶ台をひっくり返したニーチェについて、もっと語って欲しい気がするし、それぞれの哲学者が登場する時代背景や世相についてもヘーゲルの項で少しふれられているが、もう少し話が聞きたい気がする。でもあくまでも本書は入門書なわけだから、さらに深入りしたければ他の書をお開きなさいということなのだろう。著者は親切なことにわざわざ八冊の本をあとがきで紹介しているのだから。


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