オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

三浦しをん「格闘する者に◯」を読む。


ものを書くという行為は、結局は自分のことを書くということだろう。自分が経験したことがないことや考えたことがないことは、書けないのだ。主人公は、漫画大好きの文学部4年生の女子学生だが、漫画大好きに伴うリアリティーは、おそらく多分に作者も漫画が大好きなのではないか?と邪推が働く。彼女の作品のプロット構成や描写、人物設定にどうも漫画大好きの影響が感じられるのだ。

このデビュー作は、恐らく作者自身が大学4年生時に経験した出版社への就職活動がベースになっている。しかし、もちろんつくり話の部分はあるわけで、政治家一家の後継者騒動に巻き込まれる様子などは、作者自身の体験からは少し遠い出来事のような気がする。また、林業に携わる若者が登場するが、これは後の「神去なあなあ・・」との関連性を勝手に予想してみたくなる。

作者は、このデビュー作の出来栄えについて、これが自分が書きたかった小説なのかどうかについて悩むことがあったらしいが、すでに現在に至る活躍を予想できる萌芽が至る所に顔を出している。語り口、他者への観察眼、巻末の解説で重松清が恐れ多くも漱石の「吾輩は猫・・・」と比べながら分析を試みているが、三浦しをんが語る対象との間合い・距離感について、なるほどと頷かせる解説だった。







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