オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

本田有明「歌え!多摩川高校合唱部」を読む。

私は、大学時代から合唱を始めているので、高校の頃の合唱経験は、クラス対抗の校内合唱コンクールくらいである。大学から始めた合唱は、男しかいない!グリークラブというところで、本書が題材にしている高校の合唱部、それも混声!の世界がとても眩しく見える。(中学や高校の時に、声がでかい!という理由で誘われたことはあった。あの時に入っていればよかったな)
本書を読みながら、そんな若い頃のキラキラした時間と場所の思い出が蘇ってきた。初めてパート分けをした時のこと。演奏旅行に行った時のこと、合宿でのアホな思い出etc。

本書の中で、夜中に河川敷で大声を張り上げていた飯島くんを、警察官が注意する場面がある。飯島くんが多摩川高校合唱部であることを知り、警察官が校内合唱コンクール大地讃頌を歌った思い出を話す。そう、クラスの友達と合唱した思い出は、誰にでも共通しているのだ。それほどまでに、その楽しさをすべての人が体験していながら、社会に出ると大半の人々は、歌を忘れたカナリアならぬ合唱を忘れた人になり、カラオケで歌う欲求を解消している。地域の合唱団で歌うための時間的な余裕が日本という国にはまだないし、そもそも生きる喜びよりも仕事を優先しなければならないのだ。そろそろ視点を変えなければ、豊かな未来は開けないのに。
ペットボトルを使った呼吸練習、ボールペンをタケコプターのように回して頭頂部から遠くへ響かせるイメージをつかむ練習。合宿での先輩と一対一でのバディー練習。これらは、高校の合唱部だから、こんなことをしているというのではなく、実はこれから合唱を始めよう或いは自分の発声をスキルアップしようという人には、とても有効な練習だと感じる。私の所属している合唱団でも、無理がない範囲で試みてみようか?と思った。

実は恥ずかしいのだけれど、読みながら何度も涙してしまった。こんなにも合唱って素晴らしいのか!合唱を愛している人はこんなにも純粋なのか!小説なので随所にフィクションが仕組まれているに違いないけれど、そんな小細工を通り越して、本書は合唱することの価値を読者に伝えることに成功している。合唱する人、合唱をしてみたい人に、この本をぜひんでいただきたい。