オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

荻原浩「神様からひと言」を読む

温泉旅行に行くのに、妻は本を何冊も持って行く。読み終わった本をおこぼれに預かるように読ませてもらっていたのだが、何となく寄生虫のようで悲しい。そこで今年は心を入れ替えて、Kindleで購入し、iPadで読むことにした。そもそもiPadを買ったのは電子書籍が読みたかったからだったのだし。
私は、いわゆる普通のサラリーマン経験がない。教員だって一応はサラリーマンだが、オフィスの中で上司の目を気にしたり、社内の情報にアンテナを張ったりする経験値が不足している。教室へ行けば、悪い意味でお山の大将なので、同僚とはチームの仲間ではあるけれど、変なやっかみやひがみとは、あまり縁がないのだ。
表題の「神様」は、社訓に掲げられている「神様」であると同時に、公園で一人いじけてギターを弾いている主人公を諭すジョン・レノン風の男のことでもある。
本書はキレやすい、自制が困難な主人公のそれなりの成長物語とも読めるが、こんな人本当にいるわけないでしょ!という規格外の脇役がいい。筆頭はやはり篠崎さんだろう。競艇になると人が変わり、およそ分別というものがなくなってしまう。しかし、本書で篠崎さんが主人公に指南する言葉は、クレーム対応の部署に初めて就いた人なら読んでおくとどこかで役に立つかもしれない。クレーム対応の基本のキである。
まあ、最後はお決まりの水戸黄門的な勧善懲悪と別れた恋人との新たなスタートを予感させて終わっていて、娯楽小説の王道を踏み外していない。読後感と湯上がりの爽快感は、似ていると温泉旅行中なだけに余計感じた。