オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

重松清「空より高く」を読む。

昭和の世代なら誰もが大好きな歌謡曲舟木一夫が歌った「高校三年生」がある。高校三年生というのは、クラスメイトとか部活とか生徒会だとかいう言葉が、リアルに実感できる最後の学年だろう。大学に入ってしまうと、それぞれが自立しまうので、高校三年生の時のようなクラスの連帯感は、もはやなくなってしまう。
本編の主人公たちは、高校三年生であり、お話としては夏休みの終わりから年明けまでのエピソードが綴られている。ライトモチーフは、ジン先生の呼びかける「レッツ ビギン!」だ。青春物語なだけに高校生に大人たちが諭す言葉も名セリフが多いが、やはり言いたいことは結局「レッツビギン!」なのだ。作者が、あとがきで自作をもう一度読み直したくなったと書いているが、このお話は、何かを始めようとしている人に対して、そのまま応援歌になる。
キャラが濃すぎるジン先生みたいな人は、こんな先生がいたらいいなあ・・と言う一種の憧れが込められている気がしてしまうけれど、ピエロのフジモトさん、ネタローの親父、ラーメン屋のウメさん、高校生たちを見守り、応援する大人たちが実に気持ちよく描かれている。
同級生では、ドカやヒコザという友人よりも、唯一の女子高校生キャラであるムクちゃんがいい。ネタローに告白する前のムクちゃんみたいな女の子って、どこかでいそうな気がするし、ネタローとのピュア過ぎる関係も、焦ったくてひと昔前の高校生って純情だったよなぁと思い起こさせる。

しかし、「レッツビギン!」は、何も高校生の特権ではない。何かを始めようとしている時の気持ちは、一生持ち続けていたいし、昨日とほとんど変わらない日常にどうやってクサビを打ち込むか?は、考え続けなければいけない。私の2016年のレッツビギン!は、港南台アカペラシンガーズをスタートさせたり、薩摩琵琶を習い始めたことになるのかもしれない。それらが惰性や単なるルーチンワークに陥らないために、本編の登場人物やセリフから学び得るものは、たくさんあると感じました。