名作を読む7
男声合唱で歌っている信長貴富作曲「くちびるに歌を」の第一曲は、「白い雲:という曲。この曲の詩がヘルマン・ヘッセで雲に自分の思いを託して、定められない自由への憧れを歌っている。
「車輪の下」は、神学校に優秀な成績で入学した主人公が、受験勉強漬けだった日々を振り返り、自由を愛する友人とふれあい感化を受ける。やがて学校を去り機械工となって、酒に酔った末、川で溺死してしまう物語だ。ヘッセ自身の青春時代も神学校から機械工になるまでは、似たような感じだったらしい。ドイツでは、聖職者の生活を税金(教会税)で保証しているから、牧師になると安定した生活を送ることができるのかもしれない。それで神学校への入学が難関で、ちやほやされるくらいのエリート意識を助長してしまうのかもしれない。
ところで、「ある程度勉強しておかないと、いい学校、いい会社に進めない」という信念に凝り固まった大人は、今も少なからず生息しており、春になると今も昔も学校別東大合格者数が週刊誌の見出しを飾る。私は元来が怠け者なので、いつも最低限以下の努力で最大限の効果を得られるように、怠惰に生きてきてしまいました…。だから自分の資質からすれば、ほどほどの学校を出て、申し訳ないがほどほどの教員人生を送ってきた。よかったのは、そういうわけで私は一番とやらになったことが一度もない。非常に学力・能力に偏りがあったので(具体的には子どもの頃、運動が不得意)、面倒くさいことにコンプレックスだけは人一倍強かった。
車輪の下のハンスは、自分とどう向き合えばよかったのだろう?この問いに一般解はないが、問いそのものは、若く悩める青年にとって普遍であろう。白い雲を見つめながら「自分とはいったい何者なのか?」を問うことができるのは、青春の特権なのだ。