名作を読む61
シュティフター作「水晶」
すべての子どもたちにとって一番楽しい夜は、やはりクリスマスイブだろう。険しい山を越えた隣村のおばあさんの家に遊びに行った兄妹は、日が暮れないうちにと、お土産を持って帰途に着く。ところがその二人を大雪が襲うのだ。二人は道標を見失い、雪の山を彷徨う。
ようやく岩の下で雪を避けられる所を見つけるが、もうすっかり夜。眠ってはいけないと妹を励ます兄の様子が実に健気だ。
翌朝日が昇り、無事に救い出されるストーリーだが、村人たちがクリスマスそっちのけで、捜索活動にあたっているところも、心が温まる。山あいの普段人が行き交うことが少ない村では、みんなが家族同様なのだ。
日本だって、つい100年位前までは似たような村が残っていたことだろう。でもそのような共同体を否定して、日本は殖産興業の道を一直線に進んできてしまった。その挙げ句が、隣に住む人の人となりさえわからぬ都会生活。事件が起きた際の取材で浮き彫りになるが、だからと言って今更人と人を繋ぎ合わせる術はどこにあるのか?
まだどこかに地域で人を繋ぎ合わせる必要が眠っているはずだと思う。