オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

オヤジのあくび251

佐藤伸行「世界最強の女帝 メルケルの謎」を読む

 

ドイツという国は、中世の頃、神聖ローマ帝国として君臨した奇妙な自意識をまだどこかで引き摺っているのだろうか? ヴィルヘルムⅡ世の頃の3B=ベルリン→ビザンティン→バグダッド計画、そしてヒトラー第三帝国に象徴的なように、ゲルマン民族としてのプライドが高く、どうも危なっかしい。

けれど現在、イギリスがEUからの孤立を勝手に選択した結果、実質ヨーロッパの盟主はフランスであるよりもドイツである。そしてそのリーダーがメルケルその人である。

プロテスタント牧師の父を持ち、メルケルは何と生後数ヶ月で西ドイツから東ドイツに移住するという逆コースを辿っている。東ドイツ時代の35年間は、徳川家康流に言えば、鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス時代と言えそうである。徹底的な個人への監視体制が引かれ、自由な言論政治活動など、もってのほかであった東ドイツ時代は、目立たない物理学者として、ひたすら爪を研いでいた時間だったのだろう。

さて、ドイツ国内の権力闘争はもとより、フランス、ロシア、イギリス、アメリカ、中国首脳との丁々発止のやり取りの表裏が、本書には記されている。著者がヨーロッパに配属されていた報道関係者であったからこそ追えているのだろう。メルケルは、際立ったイデオロギーを主張しない。常に現実にドイツを取り巻く問題を分析し、それらをどう解くか?またいつ回答を提出するか? ずば抜けた理解力と記憶力で計算を止めることがない。世界をどうこうしようなどと、某大国のリーダーのような派手なパフォーマンスはないが、結果的に欧州の経済はメルケルの描いた設計図で回っている。

私たちがこれからの時代、政治家に求める資質はメルケルという稀代の政治家の中にあるような気がする。