オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

オヤジのあくび273

山鳥重「気づくとはどういうことか」


いのちとは? こころとは? という深い問いが第一章で語られる。こころは、脳の働きなのか? 神経網との関わりはどう説明できるのか? に著者は果敢に挑んでいらっしゃる。すると創発という言葉が出てくる。物理化学的な法則に従う神経と並行して縛りを受けながら、独自の原理に基づいてこころは働くという説明です。

鉄でできた自転車が、鉄という材料の縛り(脳神経)を受けながらも、より遠くへ速く人を運搬する(心)という原理を基に作られている・・との説明はわかりやすい。

この本の仕組みも、こころがどのような神経=脳脊髄の働きによっているか? に何度も戻りながら、こころの動きを解き明かす作業が進められていく。

「いま」に対して「こころ」がどう関わっているのか? ベルクソンの示した仮説が出てくるけれど、偶然最近ベルクソンの解説を読んでいたのでずいぶん助けられた。ただ脳神経学者である著者は、生きることの意味価値を哲学者とは違った視点で語る。記憶障害を始めとするさまざまな脳の症状を臨床の場で経験しており、そこから神経の働きを元にしたこころの働きを語っているのです。

最終章で、武術=弓道に打ち込んだドイツの哲学者オイゲン・ヘリゲルのエピソードが語られる。ある技術を身につけて、的に正確に当てることを目的と考えるスポーツとは対照的な師匠阿波研造の難解な思想が語られている。鬼滅の刃のヒットで全集中という言葉が流行したけれど、そもそも集中とはどういうことなのか? 考えてみるチャンスだったのだと思いました。そして一番最後に鈴木大拙の説いていた霊性が著者が言うコア感情やアクションと一致するのではないか? と提起し、本書が閉じられます。

普段気づかなかったことに目を向けてみることで、気づきとは何かが、ほんの少しだけわかった気がします。