南海時代、三浦清弘投手と牽制球について、盗塁を防ぐために、あれやこれや策を練っていた話が出てくる。
当時のパリーグには福本豊というとんでもない盗塁王がいた。当然一塁手に進めば、即二塁を狙われるわけで、バッテリー間の工夫は並々ならないものがあったことを語っている。そして今では当たり前になったクイックモーションもこの時期の産物なのだそうだ。
ノムさんは、私がまだ子どもの頃、阪急のスペンサーと熾烈な三冠王争いを演じて三冠王のタイトルを手にしている。もちろんポジションはキャッチャー。同僚に日本一のキャッチャーがいれば、残念ながら他の選手の出番はない。南海時代の柴田捕手と高橋捕手の能力について、ノムさんは高く評価している。こういう目線が私は好きだ。
ノムさんの野球をシンキングベースボールと呼ぶ。たしかプレイングマネージャーだった頃から、そんな話が出ていて、ノムさんをヘッドコーチとして支えた人が、ドン・ブレーザーだ。本の中ではヒットエンドランや送りバントのサインが出た時の対応の話など実に面白い。
バットの太さの南海藤原選手の話で一言。「固定観念は悪、先入観は罪」だとノムさんは言う。
いわゆる野村再生工場について「進歩とは変わること」「変わることが進歩」。当たり前のようでいて、なかなかできないのは、自分の保守的な側面が邪魔しているのだろう。ノムさんに言われるとそんな気がしてくる。