オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

オヤジのあくび298

森正人「大衆音楽史」を読む1

 


本書の著者の専門は、地理学であります。非常に用意周到に書かれている「はじめに」からして、単なる音楽通史ではないことを暗示している。

 


どの時代のどの国のどのような経済状況が、どのような人々にどのような音楽を享受できるどのような場所を提供したか? 考えてみれば、このような考え方の順番はかなりごもっともなのだけど、私は今までこの論法で音楽を語る本に出会ったことがなかった。

 


産業革命以降のイギリスとロンドン市内に乱立したミュージックホール。そこへどんな人が音楽を楽しみにやって来て、どのような音楽が演奏されたのか? 且つその裏で衰退していった民謡があると言う。

次いで話はアメリカに飛び、ニューヨークの楽譜出版社=ティン・パン・アレーと作曲家の権利、そして劇場、レコード、ラジオという場や媒体の歴史が語られる。およそ今から100年くらい前の話だ。

話の中で、哲学者で社会学者で音楽批評家でもあったアドルノが登場する。彼曰く「大衆音楽は、そのほとんどが32小節の長さで、音域は一オクターブと一音の範囲に限定されており、ヒットさせるための型(=主題、テンポ、和音、構成)に当てはめられた規格化された音楽である」と。

アドルノを取り巻いていた二十世紀ヨーロッパ音楽との対比としては、ある意味的を得ている言葉だと感じています。