オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

オヤジのあくび368

村上春樹1973年のピンボール」を読む

 


現代小説の感想を「オヤジのあくび」には、ほとんど書いていない。前回の安部公房に続いて、村上春樹も初登場。

初めて読んだ数十年前の印象だけど、外国文学を翻訳しているような乾いた文体に、日本文学の湿っぽさというかベトベト感がないと感じた。情緒感過剰な形容詞を使わないことからそんなイメージになるのかなぁと思っていた。

シナリオの書き方を教わると、カットバックの使い方について習う。そうだ、村上春樹早稲田大学の演劇科の卒業生で、若い頃はシナリオを書いていたらしい。このスキルは、きっと彼の物語作法の基盤にある。つぎはぎや当てはめが有効なのは、随所に登場する彼の大好きな音楽も同様だけど。

この本は鼠と僕の青春物語なのだけど、後半に入るとタイトルであるピンボールの登場回数が増えてくる。僕にとってかけがえのない恋人は、所詮は機械に過ぎないピンボール台だったのだとでも言うように。

最近は、さまざまな政治的な発信もしているけれど、四十年前の筆者からは、およそ想像がつかない行動だろう。「人間とか社会とかと、どう距離をとったらいいのか?」悩み、代替物としてピンボールと会話する青年像が、四十年前ならどこかにいたとしても不思議ではなかったと思う。