名作を読む92
ロスタン作「シラノ=ド=ベルジュラック」を読む
シラノは、感情の振幅が大きい男だ。自分の鼻の形が醜いと、抜き差し難いコンプレックスを抱えている。剣を手にすれば無双の達人なのだが、相手とやり合うきっかけも自分の鼻を馬鹿にされたことがきっかけなのだ。詩人としても素晴らしい才能なのだが、美しい愛の言葉を伝える相手がいない。
ところで自分の思いが打ち明けられずに、一人で勝手に悩んだ経験がおありだろうか? 自慢ではないが、私も若い頃にはずいぶんたくさんあった。奇妙な自意識が邪魔なのだ。その部分だけに関してはシラノと似ている。
シラノはロクサーヌ姫に自分の思いを伝えられないばかりか、逆に他の青年クリスチャンとの仲を取り持つことになってしまう。詩才に乏しいクリスチャンに代わって、手紙に愛の言葉を綴り、プロンプターのように愛の告白サポートしたのは、シラノなのである。何と言う要領の悪さと容姿への引け目!
これではあまりにも可哀想なので、死ぬ間際にロクサーヌへの思いを伝えてシラノは死んでいく。「すばらしくてしかもくだらない男」は天に召されたのだ。
コピペを多用すれば、何となくお体裁の整った文章が出来上がる時代になったけど、やっぱり自分の思いは自分で書き、語るべきですね。