オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

オヤジのあくび404

今枝由郎「ブータンに魅せられて」を読む2

 


いよいよ「国民総幸福」の話。幸福度は主観的で個人差を伴うものだから、共有できる尺度になり得ない。この概念を1972年に提唱した国王によれは、それはむしろ「充足」であるという。資本主義社会における尺度としてのGNPに軸足を置かず、時代に逆行している感があるこの提案が、成長が行き詰まって、持続可能な開発にようやく気づき始めた国々に、注目されている。

数値化する試みは、もちろん行われていてイギリスのレイチェスター大学による世界幸福地図で、ブータンはアジアで1位、世界で8位である。ちなみに世界1位はデンマーク。日本は90位。

要は無理のないサイズで、より人間らしく生活できたらいいということか。コロナ禍にまみれた私たちは、対面によるコミュニケーションを失った。肉声が聞こえない。宴を共にできない。マスクで微笑みがわからない。それらがどれだけ私たちを充足から遠ざけたかを、今更語る必要もないだろう。

本書には、それではまるで中世社会でしょう! と思わせるブータンの慣習や非能率的な行動が随所に書かれている。けれどそれは近代化という名の下に私たちが失った人の姿であると見方を変えることもできそうです。ちょっと苦しいところだけれど、伝統的な慣習の多くを捨ててしまった日本で、もう一度取り戻すことができるものがあるのでしょうか?