オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

オヤジのあくび447

福元一義「手塚先生、締め切り過ぎてます!

」を読む

 


手塚治虫さんの一生で最も大きな事件は、やはり虫プロの倒産でしょう。でも絶壁から谷底に突き落とされたような境遇で、不死鳥のように「ブラックジャック」や「三つ目がとおる」が始まるのが、一漫画ファンとして不思議だったのですが、倒産直前に少年チャンピオンから続いて少年マガジンから連載の依頼があり、そこに筆者も立ち会っていたそうです。依頼の順番が変わっていれば「ブラックジャック」がマガジンに連載されていたかもしれないのです。漫画で血を描くことは斬り合いのシーンなど多いのでしょうが、ブラックジャックでは手術シーンでした。そして血はマジックで色を付けたと本書には書かれています。間違いが許されないので、そこは手塚治虫本人が必ず着色したと書かれています。

手塚治虫が亡くなる年、私は新聞と一緒に朝日ジャーナルを取り寄せていて、毎回「ネオ・ファウスト」を読んでいた。ファウストを題材にした作品は三作目で、ディズニーの影響が感じられる一作目、「百物語」と題して不破臼人が主人公の時代劇仕立てになっている二作目、そして三作目が現代の「ネオ・ファウスト」。死の直前まで「頼む、仕事をさせてくれ!」と床から起きあがろうとされていた話は、著者も書いているようにゲーテの最後の言葉「もっと光を!」と通じるものを感じます。そして、本書のタイトルもずっと締切に追われていた手塚治虫の姿を回想するだけではなく、天国の手塚治虫に未完に終わった作品の完成をスタッフとして呼びかけているようにも読み取れます。未だ60歳、とんでもない仕事量に身体が耐えきれず、燃え尽きてしまったようにも感じます。

日本近代漫画の歴史は、北沢楽天岡本一平から語ることが出来そうだけど、昭和に手塚治虫という天才が出現して、新しい表現を開拓したことは、これからも長く語り継がれるだろう。