オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

オヤジのあくび462

鴻上尚史「演劇入門」を読む3

 


演劇入門というタイトルなのに、全体の3/5辺りまで演技指導に関する話が出てこない。そして「演技においては、話すよりも身体を動かすよりも、心を動かす方が難しい」と言う。リアル、嘘、嘘くさい(何とかのふりをしている)の三つに演技を分類すると、それは演劇ではなくて「演劇に似た何か」になってしまうと。心が動いている演技は、先が予想できない。その上で「予想を裏切り期待に応える」ことが基本だと。

もう少し進むと「演技はあなたが一番隠したいと思っている恥ずかしい部分や見せたくない部分を見せること」と続きます。無防備な心のまま向き合う。それが演技の時の心の状態であると。だから俳優の仕事は積極的に傷つくことになります。演出家の仕事は、稽古場を「みんなが安心して失敗できる場所」にすること。全ての生表現に心得として当てはまりそうですね。

最後の方で、表現と表出の違いにふれています。どれだけ受け手=観客の心を動かしたか? が表現で、どれだけ送り手=俳優の心を解き放ったか? を表出と呼びます。そしてまず始めは、表出であると。

この本が書かれたのは、コロナ禍に突入してからなので、演劇上演がとても厳しい状況に置かれていた時です。演劇が人間が生きていく上で本当に必要なのか? と著者は問いかけます。私なりに学校の先生として答えます。国語や算数がご飯やパン、社会や理科が肉や魚、体育がビタミンだとしたら、音楽や図工・美術、そして演劇は、フルーツやお菓子だと。無くても生活できるけれど、なかったらやっぱり人生に味気ない。せっかく受けた生なのだから、楽しみましょうよ。