宇都宮芳明「ヤスパース」を読む1
ヤスパースは、始め法学を学ぶが、医学に転じて「精神病理学総論」を著す。その後ハイデルベルグ大学で心理学の講義を担当することになる。このハイデルベルグでマックス・ウェーバーに出会う。そして彼を哲学者として評価したのだ。今日私たちはマックス・ウェーバーを社会学の開拓者とすることが多いが、彼がヤスパースを哲学者として捉えたのは新鮮だった。しかしこれは当時の「御本家」哲学者から反発を受けてしまう。やがてヤスパース本人も心理学から哲学の教授に転身する。
時代は、ワイマール共和国からナチスの台頭、そして第二次世界大戦に突入していく。ヤスパースは大学を追われ、出版物も制限されながら、沈黙を守り思索と執筆のの時間を過ごす。妻がユダヤ人であったことから、危険を身近に感じていたのだ。
戦後、ナチスに対して露骨な抵抗を試みなかったことに責任を感じつつ、ヤスパースは大学の再建に尽力する。本書は初版が1969年の東西ドイツ分裂時代であるが、統一は西側からではなく東側の自由を求める動きが高まって始めて、統一されるべきであり、そうでなければ再びドイツ帝国の幻想が甦るというヤスパースの考え通りに、その後の歴史は動いた。自身はその頃の西ドイツのあり方に疑問を持ったのだろうか? 晩年をスイスのバーゼルで過ごしている。