鳥居徳敏「ガウディ」を読む
このちくまプリマー新書はシリーズものになっていて「よみがえる天才6」としてガウディが取り上げられている。誰もが真似したくてもできない資質才能とそれが発揮された表現を以て、天才と呼ばれるのだろう。ガウディの平曲面やパラボラを多用したり、洞窟内の曲線の美しさを再創造したりする建築を見るにつけ、その他のあらゆる建築家と隔絶した存在であることがわかる。
本書の前半は、彼が育ったカタルーニャの風土、銅製品を作っていた父母の影響、大学では他科目に比べて、幾何学の成績が極めて優秀であったことなどが語られる。ガウディは「建築は講義から学ぶのではなく作品から学ぶもの」と言っている。それは実際に作ってみてナンボという職人気質を表しているかのようだ。
ところでサグラダ・ファミリア教会と言えば、21世紀の現在もなお建設は遅々として完成に至っていない。これは教会の建設を始めた聖ヨセフ信心会が貧困に喘ぐ人々の集まりで、産業革命以降貧富の差は拡大する一方だったから、建設は常に赤字で資金もなかなか集まらなかったのだ。資本家や貴族がバックについたなら、状況は変わっていたに違いない。ガウディ自身は、第一次世界大戦の頃すでに建築界の大御所的な存在だったが、一切の仕事を止めてサグラダ・ファミリア教会の建設に集中する。そして献金を求めて見知らぬ家を戸別訪問して回ったのだ。
ガウディは、路面電車との接触事故が元で亡くなる。この事故に遭ったみすぼらしい姿の老人が有名な建築家ガウディであると、気づくまでにかなりの時間がかかってしまいました。聖堂建設に集中し、衣服は粗末で食事は生野菜と牛乳程度しか取らなかったガウディ。そこには使命に人生を捧げる清く貧しい生き方が感じられます。世界的に有名な建築家としてのガウディと日常の目立たない姿には大きな落差があったようです。
最後にガウディの言葉。「人間は創造しない。」カトリック信者であるガウディにとって造物主は神だけなのですね。「神と協働しないのであれば模倣者になる。」模倣から学びつつ、その一線を超えるための何かを説いているようです。