白石仁章「戦争と諜報外交」を読む3
どういう場面に居合わせたか? 外交官としての運命や評価に大きく関わる。そして最終的な判断は、本国にいる外務大臣を始めとする政府の意向なのだ。ここに外交官としての葛藤があり、本意ではない行動を強いられることもあるだろう。三人目の来栖三郎もその一人であります。
本書には頻繁にインテリジェンスという言葉が現れる。これは知性ではなくて諜報の意味で使われているのです。諜報という言葉自体が何となく密かに策を巡らす的な意味に捉えられがちだけれど、これこそなくてはならない情報収集そのものということが本書を読むとよくわかる。
来栖はベルギー大使からドイツ大使へと転じており、悪しくもそれは日独伊三国同盟の締結に至る時期と重なっていた。三国同盟は松岡洋右外務大臣による松岡外交の結果であるが、それは来栖のヨーロッパ情勢分析とは大きくズレていた。来栖はドイツによるヨーロッパ支配は不可能と予想していたのだ。
息子が来栖に対して言った言葉「外交とは、波打ち際にものを描くようなものである。」そうかもしれない。アメリカ人の妻との間に生まれた息子は太平洋戦争で戦死しているが、外交の力で戦争を防ぐことができたのではないか? と私は想像します。