白石仁章「戦争と諜報外交」を読む4
最終章は、杉原千畝。この素晴らしい外交官については、何千人ものユダヤ人を救ったエピソードを中心に据えて多くの書が出ている。
おえコラの練習は早稲田の東京コンサーツという会場を使うことがある。この辺りの建物を早稲田奉仕園と呼んでいて、若き日の苦学生杉原千畝はここで生活していたという。彼が外務省留学生試験に合格して学んだのはロシア語であった。
千畝がハルビン総領事館に勤務している時に、満州事変が起き、満州国外交部に転じる。ここで千畝は北満鉄道の買収という大仕事をやってのけた。ロシア革命を心よく思わない白系ロシア人が彼に協力した。そしてソ連側から申し出た価格の5分の1で買い取ることに成功したのだ。ところが満州国で日本人の中国人に対する振る舞いに我慢ができず、帰国してしまう。
フィンランド公使館を経由して、千畝はリトアニアのカウナスに着任する。リトアニアには日本の領事館はなかったのだけど。満州の時の白系ロシア人同様、政治的に弱い立場の人々と協力関係を築き、徹底的に彼らを守るところが千畝の真骨頂であろう。
ヒトラーの対外政策に、戦前の日本はいいように振り回されてきたのだが、独ソ開戦直前に千畝は自身で車を運転し、危険極まりない国境付近の様子を見ている。そして日本の本省に独ソの開戦が近いことを打電したのだ。日本が欧州の戦禍に巻き込まれてはならないとの一心だったろう。けれど千畝の情報が活かされることはなかった。どれだけ有益な情報が送られてきても、結局は判断する組織や責任者次第なのだろう。
千畝の外交官としての卓越した情報収集力にそのスポットを当てている本書は、千畝の姿をより鮮明に描くことに成功していると思います。