ぼくが出会った合唱指揮者② 福永陽一郎=陽ちゃん先生
福永陽一郎は、人から先生と呼ばれることを露骨に嫌った。事情を知らずに「先生」と呼べば「ボクは先生していません!」の一喝を喰らってしまう。しかしながら、死後三十年以上経ち、未だにその演奏が語り継がれ、編曲が全国津々浦々で歌われている音楽家が何人いるだろうか?
大学を出て2年目。後輩のF氏から「武部さん、藤沢でカルメンやるんですけど来ませんか?」と誘われたことが、陽ちゃんとの出会いだった。藤沢市民オペラには、カルメン、蝶々夫人、ウィリアム・テル、アイーダ、椿姫、ファウスト、フィガロの結婚まで合唱参加させていただきました。また市民オペラとの出会いがきっかけとなって、ドン・ジョバンニやオテロにも出させていただいています。
合唱は藤沢男声合唱団でして、その頃は十人揃うかどうかの小さな合唱団で、80年代の後半は団内指揮者をやらせていただきました。団内指揮者になって選曲に携わるわけですが、ご自宅が近かったことをいいことに、上がり込んで福永家の膨大な楽譜蔵書に触れることが出来ました。
世の中にこんなにもたくさんのレコードと楽譜を持っている人がいるとは! 心底驚いたことを今もはっきり覚えています。
レコードと言えば、東京溜池の東芝スタジオに入って、レコーディングを経験したのも陽ちゃんが指揮するところの池辺晋一郎「冬に向かって」でした。何度も録り直しながらレコードができていく過程を目の当たりにして、やっぱりライブの方が楽しいなぁと感じたのも確かなことでしたが・・。陽ちゃん先生、ありがとう!