片野ゆか「動物翻訳」を読む2
宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」でアオサギが話題になったが、本職に登場する動物は、アフリカハゲコウ。知らない鳥だったので少し調べると、腐肉を食べる大型鳥らしい。
担当者のミッションは、フリーフライト。つまり大空を自由に飛翔させることだ。鳥が大空を飛ぶのは当たり前の話だけど、それを動物園で実現するとなると、だいぶ勝手が違う。ちゃんと飼育員のところへ戻って来られるようにしなければならないのだ。
恐れていたことは、起きてしまった。動物園のある山口県秋吉台から飛び立った雌鶏のキンが和歌山県の御坊市まで飛んだのだ。これを人間=動物園側の視点ではロストと言うべきだろうが、鳥からしてみたら気晴らしの小旅行なのかもしれない。発見されたあとの課題は保護。大好物のワカサギに含まれていた睡眠薬のおかげで、雌鶏キンは元の動物園に戻ってきた。ただしその後のフライトにはGPSの付いたハーネスを装着するようになったけど。
最後に登場するのは、キリン。ボクは「キリンさん」という不思議なレクダンスを持ち芸にしていて、学校の宿泊行事でよく踊っていた。その歌の3番「キリンさん、キリンさんどうしてぇ まつ毛が長いのぉ バッチリあなたにウィンクをあなたがとっても好きだから だからまつ毛が長いの♪」何だこの歌詞は? という呟きを意に介さず踊ると、翌朝も子どもたちが替え歌にしながら歌い続けているのだった。
キリンは一般的には神経質で怖がりな動物。本書に登場するキヨミズは、エサの質にこだわる美食家だ。下痢気味のキリンのために良質のエサを探す努力がすばらしい。
話のヤマ場は三ヶ所あり、始めが出産場面。大型動物ゆえだろうか、妊娠期間が長く、雌キリンのミライさんを見守る飼育員の気持ちが伝わってきます。もう一つは園舎の引っ越し。神経質で怖がりな動物園のキリンにとって、まったく未知の場所に入ることは、とても怖いことだったのだ。三ヶ所目が、その後も無事に出産を経験したキリン家族が4頭で暮らすようになる話。本来野生では群れで生活しているので、促す方向としては望ましいのだろう。お母さんを独占したい気持ち、お互いの距離感など、様々な行動から飼育員は学習を積み重ねていく。
動物園の動物たちはペットではない。飼育されているのだが、その力はヒトを遥かに凌ぎ、特にほとんど声や表情がないキリンは気持ちはよくわからない。でもだからこそ飼育員は日々最大の愛情を注ぎ、できることをいつも工夫しているのだ。
その愛情から私たちが学ぶことは大きいと感じました。