ハイディ・グラント・ハルパーソン 児島修訳「やってのける」を読む
序章でラディッシュを使った実験で我慢を強いられ、苦いラディッシュを食べさせられた被験者は、自制心を消耗していたという記述が出てきます。ストレスが多い環境に居続けると人は自制心を消耗してしまう。これはさまざまなトラブルを引き起こしている環境がかなりストレスに満ちていることからも類推できます。けれど筆者は自制心は鍛えることができると言います。例えば、エクササイズをする、家計簿をつける、食事の内容を記録するなどの「鍛錬」が自制心を鍛えることに繋がると言います。
目標設定ついては、長短比較が有効。目標を達成した時に得られるもの(長)と、そこに到達するまでの障害の大きさ(短)を比較するとよいと言うのです。ボクは小学校の教員をしていたので、子どもたちの夢を卒業アルバムに書いてもらったことがあります。実際にそのページを作ることを決めたのは卒業アルバム委員でしたが、担任として異を唱えなければ是認したのと同じでしょう。小学生は無邪気ですから、自分の夢を叶えたいと思っています。けれど将来像=夢に至るまでの乗り越えるべきハードルはどこで伝えたらいいのでしょうか。すでにその為の準備を始めていて、夢を語っている子がいて実際に卒業アルバムに書いた通りのプロスポーツ選手になりました。その準備を本人と相談しながら伴走していくのが、教員も含めて身の回りにいる人の務めのような気がします。
ところで筆者は社会心理学者で、本書にはたくさんの比較実験とその結果が紹介されています。ボクは無意識が行動に及ぼす影響の実験に興味をもちました。例えば「協力的」「支援」「公正」「共有」などの言葉を使って文章を作った後に、ゲームをすると他の対照群に比べて、はっきりした自覚はなしに協力的な態度を取るというものです。無意識の力を引き出すのは、言葉以外にもいろいろなきっかけを配置できるので、工夫できると言います。無意識の力を恐るべしですね。
目標と評価方法について述べた箇所では、次のような比較対照実験が紹介されています。他者との成績比較で評価すると告げられたグループと個人成績の向上で評価すると告げられたグループでは、後者の方が成績が伸びるというのです。悪名高い日本の偏差値偏重は、他者(母集団内)との比較なのですから、もっと一人ひとりの生徒の力を引き出す方法が見つかりそうです。
本書の副題「意志力を使わずに自分を動かす」の意味が9章で出てきます。ネタバレのようですが、いつどこで何をするかを習慣化した条件型計画が効果をあげると言います。習慣化された行動はほとんど無意識のうちに行われるので、意志力が不要ということだったのですね。
最後に、この本の著者は女性であります。目標設定の例としてたびたび登場するのが、体重管理や食事のコントロール。身近な例で親近感が湧きました。