ピレネー山脈より西、現在スペインやポルトガルがある地域の歴史は、イスラム勢力とカトリックが入れ替わったり、国の名前もコロコロ変わって、単線型ではない。本書はケルト(セルト)人と原住民のイベロ人の混血であるセルティベロ族の成立から始めている。その後地中海沿岸ではフェニキア人やローマ人、ギリシア人が植民都市を築いて、勢力争いを繰り広げていたので、有名なローマとカルタゴのポエニ戦争やハニンバル(アニバル)将軍のことが語られる。
私たちが普段慣れ親しんでいる発音が、本書ではスペイン語の発音で語られるため、文中のカタカナ表記を( )書きすることにしました。
最近世界の古代史にちょっと興味が湧いて、今回の本などを読んでいるのですが、学校の教科書も含めて、政権交代の記録を辿っている感が否めません。どの王様や将軍が誰を倒して(殺して)、○○国や○○朝が成立したという羅列が目立つのです。そのうちの何人かは当時の人に熱狂的に受け入れられたのでしょうが、その英雄の残した足跡はほとんど消え去ってしまっている。本書5の西ゴート王国の成立も同じように政権剥奪の履歴を書いています。むしろ文化的な遺産の方が、ずっと息が長く時代を超えて引き継がれている気がします。
筆者はトレドで開かれた宗教会議の内容を追っていく。西ゴート王国の重要な政策決定は宗教会議で行われていたのです。当時実質鎖国状態にあった西ゴート王国にとっては、地中海沿岸で交易しているユダヤ人の存在が見過ごせなかったのでしょう。様々な圧力をユダヤ人に加えています。
「神と王」「教会と統治者」の間に、上下関係が感じられます。教会の機嫌を損ねると国内がまとまらないという事情もあったのでしょう。日本史でも僧侶が政治に関わろうとした例は、道鏡をはじめとして数例見られますが、上下関係ではなかったでしょう。
原点であるキリストは、このような力を教会が保持するようになるとは、ゆめゆめ想像しなかったでしょう。