なぜ、彼についてちゃんと学んでいないのか、本書の冒頭で明らかにされている。彼の業績に関する資料が少ないのだ。けれど明らかなのは彼の親友であるコロンブスが野心に満ちた航海者であったのに比べ、ヴェスプッチは知的な好奇心から、船長や航海士ではなく天文地理学者として「新世界」を4回訪れているのです。
後年新しい大陸の名前が、アメリゴにちなんでアメリカと名付けられたが、すでになくなっていた彼はその事実を知らない。
コロンブスの新大陸発見の功績を横取りしたという説があるのですが、コロンブスは発見した島を西インド諸島と理解して地理的に大きな勘違いをしている。緯度経度を絶えず計測しながら航海を進めていたアメリゴとの比較は、その精度から言っても水準が違うのであります。
ただ惜しまれるのは緯度にしてあと2度。南緯50度まで南アメリカを南進しながら、大陸の南端を発見する功績はマゼランに譲った点でしょうか。マゼラン海峡や太平洋の命名者の名誉はマゼランに譲ることになりました。
更に続けると、太平洋を初めて「見た」ヨーロッパ人はバルボアで、パナマを陸上で横断して太平洋を見ています。ただしその海の広がりはわからず「南の海」と呼びました。ちなみに彼はインカ帝国を滅ぼしたピサロの上官でした。
今私たちが住む地球はどのような様子になっているのか。その疑問を航海という方法で解き明かそうとした船乗りたちの冒険心には、やはり一種の憧れを抱いてしまいます。日本は海に囲まれているので、数多くの船乗りが太平洋に漕ぎ出しては、結果遭難しているわけですが、専門的な天文や地理に関する学問が十分に発達しなかったため、地図上への正確な記録は伊能忠敬、航海者としての記録はジョン万次郎や大黒屋光太夫の登場を待たなければなりませんでした。
けれど大げさな言い方を許していただくならば、私たちの知る地球は主にその表面だけで、海底のことやプレートを動かしている地底のことは、まだまだわかっていないのです。さらに月の裏側や火星の表面も含めれば、地理学の成果がこれから人々に発信するべき世界は果てしなく広いのです。