祝田秀全「建築から世界史を読む方法」を読む2
ロマネスク建築の傑作として本書に登場するのが、斜塔で有名ならピサの大聖堂。著者は世界史の先生だから、建築当時の社会背景など解説されていることがありがたい。この聖堂はピサの艦隊がイスラームの艦隊に勝った記念に建てられたのだ。ローマの模倣と名付けつつ、ローマには及ばない点も書かれています。
続いて、天をも突くようなゴシック建築が開設されます。尖塔アーチ、フライング・バットレス、リブ・ヴォールトと高さを支える工夫が説明されます。しかし、観光客目線ではステンドグラスの美しさ。口絵にもあるバリのサント・シャペル聖堂のステンドグラスは、本当に美しい!
思うに私たちには、見上げるところに美しいものがあると心が揺さぶられてしまう傾向があるのではなかろうか。山なら富士山、東大寺なら大仏様、そしてバリ・サントシャペル聖堂のステンドグラス。視覚が水平方向の感覚と垂直方向の感覚を区別して、垂直方向に特別な感覚が働くことと関係しているのかもしれない。
ルネサンス建築の代表としてフィレンツェのサンタマリア大聖堂、バロック建築の代表としてローマ・バチカンのサン・ピエトロ聖堂が紹介されます。古代ローマの素材や技法を使わないこだわりや参拝者の視線を神に引きつける工夫など、カトリックの意地か感じられます。
ロシアの青いエカテリーナ宮殿はロココ様式。この辺りからブルボン王朝のベルサイユ、ハプスブルク家のシェーンブルンなど宮殿の話が続く。王の権威を見せつけるのは、絶対王政の時代ならではでしょう。
ただ美しさに見とれているだけでは、その当時の歴史を片側からしか見ていないことになると思います。教会や宮殿を始めとする巨大建築は、資材と資金、労働力を集中させて建てられたものです。それを作ったが故に、どのように国の財政に歪みが生まれたのか、人々に課役を強いていたのか、個人的にはそのような観点も見逃してはならないと感じました。