オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

オヤジのあくび697

宮田律「中東 迷走の百年史」を読む

 


私たちは、近代国家を支える一員として国と社会契約を結んでいるはずだし、主権国家とはそういう概念なのだという西洋的発想が脳に刷り込まれている。

しかしながら、アラブ世界の人々は容易に国境を跨ぎ越し、政治的信条、民族・部族の利害、ムスリムとして所属する派閥等を元に、国家など眼中にないかのように行動する。テロリスト然りであるし、サダム・フセインを処刑された後、彼を支えていたバアス党の動きも国家・国境をスルーしている。バアス党はアラブ民族による統一国家を目的にしているのだから、当然なのかもしれませんが。

なぜ、このような事態を招いているのか、その原因を辿ればオスマン帝国の解体とイギリス・フランスの中東政策に求めることができそうです。第一次世界大戦に敗れたオスマン帝国は、領土をイギリス・フランス・ロシアによって分割されました。イラクがイギリスに、シリアがフランスに委任統治され、第二次世界大戦後に、レバノン、シリア、イスラエルパレスチナ、ヨルダンとして独立します。特にイギリスは、相手国によって約束事を変えるダブル・トリプルスタンダード的な対応をとり混乱の原因をつくりました。条約の中にユダヤ人にヨーロッパからイスラエルへ移ってもらいたいという隠れた意図があり、二枚舌外交となったのです。その一貫しない対応が今日のパレスチナイスラエル、ヒスボラ対イスラエルの戦闘状態の遠因になっているのです。

イスラム諸国の現実を読みながら、頭を去来するのは「政教分離」という四文字熟語です。現象対応の世俗政治と聖なる神の宗教世界は、しっかり線引きしないと歯止めが効かなくなる。民主主義的に選挙をしても大多数の議席原理主義勢力が占めてしまえば、宗教による政治は続いてしまう。中世ヨーロッパの歴史においても教皇と王とが極めて微妙な関係でしたが、イスラム諸国もいつかは政治と宗教に一線を引く日が来るのでしょうか。

イエメンのフーシ派、独自の民族で言語をもちながら国はないクルド人イスラム神秘主義中央アジアの状況など、ニュースの中に登場する名前について、浅かった知識は本書のお陰でだいぶ補強されました。

世界史の学習で、中東地域の学習が西洋史や中国史に比べて、圧倒的に分量が少ないのは残念です。最も日本人との関わりが薄い地域こそ正しい理解が必要で、その土台の上に日々の報道に接するべきだと思います。

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