城山三郎「賢人たちの世」を読む2
二人目は前尾繁三郎さん。お名前だけは存じてあげておりますが、1961年池田内閣当時自民党の幹事長として所得倍増計画を支えた実績について、ボクはまだ小学校にさえ上がっておらず、リアルタイムでは理解していない。
渾名は「暗闇の牛」。前尾さんは大蔵官僚出身なのですが、初めて選挙に立った時、とにかく頭が高いから何にでも頭を下げるように助言されていた。
渾名由来の一説にこの選挙の時に宣伝車のトラックに七輪を持ち込んで熱燗をやりながら選挙運動をし、ある夜暗い夜道に牛が出てきて酔っぱらった前尾は、牛に頭を下げたというのがある。
自民党幹事長時代の前尾さんは、しょっちゅう池田勇人首相とケンカしていた。首相と幹事長が顔を合わせない。呼ばれても官邸に行かない。これでもつとまるのだから凄い!
自民党と言えば、裏金キックバック問題で国民の信頼を大いに損なったばかりだ。前尾さんは企業献金を見直し、個人の寄付による国民協会(現国民政治協会)なる組織を立ち上げている。天国で政治資金のあり方について苦笑していることでしょう。
カネまみれにならないと言えば、三人目に登場する灘尾弘吉もすごい。自民党の総裁選の票がカネの力で動いていた頃、立候補もしていないのにカネに綺麗な灘尾さんに11票入った。利権から常に距離を置いていたことは本書を読むとよくわかる。
文部大臣として日教組と対峙したり、厚生大臣として保健医療を巡って医師会と向かい合ったり、本書ではスジを通そうとする硬骨漢灘尾弘吉の横顔を描いている。
現在においても難題と向き合う政治家の姿は、やはり頼もしい。いっときの人気取りや選挙目当てではなくて、何を信念に政治家をしているかが、大切なのでしょう。