城山三郎「賢人たちの世」を読む3
第四章「それぞれの春」では、三人の官僚時代を描いている。満州に行って匪賊と接点をもつ椎名、インドネシアでオランダ統治下の税制のよさを力説する前尾(ここで当時事務官であった宮沢喜一に出会っている)、灘尾の健康保険実施にまつわる態度や大分県知事だった時に大分に来た東條英機に会わなかった話など、三人ともやはり只者ではない。
第五章では、ついにあの大物政治家が登場する。田中角栄その人であります。
この頃のボクはまだ学生でしたが、ほどほどに新聞を読んでいたつもりです。けれども田中角栄総理の元で椎名悦三郎が副総裁を引き受けて、田中角栄の後継に「クリーン三木」を指名するいわゆる「椎名裁定」。さらには三木降ろしの中心人物になる椎名さんの動きがよくわかっていませんでした。本人曰く『産みの親だが、育てると言ったことはない。」だそうで、本書を読むとその辺りがわかります。
椎名さんが考えていたことの一つに「総裁・総理分離案」というのがあります、総裁は党を掌握して、政策を立案し、総理はその政策の実行者になる。権力分散と職務専念を意図した案は、具体化することなく現在に至ります。総理総裁の多忙な日常がニュースで流れると、もし実現していたら・・と想像の翼が広がります。
タイトルは、椎名・前尾・灘尾が三賢人と呼ばれていたことに由来するのだけど、
泥臭いはずの政治の世界にいながら、三人ともあまり泥まみれになっていない。一軍の将であるより名参謀・軍師である方を選んでいる気がします。
しかし、それだけに未来を見通す目は確かですし、清廉な生き方も素晴らしい。もうこのような政治家が現れることはなかろうと筆者城山三郎さんは感じていたのかもしれません。