井上寿一「教養としての『昭和史』集中講義」を読む3
ABCD包囲網、アジアの解放、大東亜共栄圏、八紘一宇・・どれも太平洋戦争を正当化するために編み出された言葉です。そして造語で塗り固められた正義の元に、多くの兵士が命を落としたのです。
話は最終盤の戦後に移ります。
戦後の日本には保守派の「改憲したいが親米」革新側の「護憲だけど反米」というねじれた対立関係がありました。 しかし突き詰めて考えると、双方とも本来は同じところにあります。保守派も対米自立なのに、国際環境が「冷戦」だったことから「アメリカと上手く付き合わないといけない」となり、親米になりました。しかし冷戦構造はすでに崩壊しています。そろそろ「反米保守」とまではいかなくても、「対米自立の保守」でもいいのではないでしょうか。
上の記述は、結局吉田茂首相の敷いたレールの上をひた走ってきたことを示しています。
核の傘の元で平和な生活を貪りながら、日米安保の矛盾には問題意識を持っている。現平和憲法をアメリカの押し付けと言い、平和の尊さを享受しながら、自主憲法の制定に動いている。それぞれサイレントマジョリティーである大多数の国民の一面を切り取れば、整合性がないところはいくらでも見つかるでしょう。
ただ実際に舵取りを任されている政治家は、国民の感情を逆撫でしないようにとウケる政策ばかりを並び立て、選挙に勝って国会に出てくる。
今年は参議院選挙の年だから、反感を買うような政策は出せない。消費税減税か、給付金ばらまきか、そんなことで右往左往しながら日本はどこへ向かうのか。
そのような現状を踏まえながら、筆者は戦前の政治への再評価を主張する。GHQによる諸改革も実は戦前から用意されつつあったと。
政策面では確かにそうかもしれない。けれど最も猛省すべきなのは「日本人が踊らされ、騙されてきたこと」だと思います。ニュースや政治家の言葉の裏には必ず隠された意図がある。それらに騙されないことが私たちが昭和史を学び直す意味なのだと感じています。