松下竜一「ルイズ 父に貰いしその名は」を読む。
ルイズは、大杉栄と伊藤野枝の間に生まれた三女。栄と野枝は、関東大震災のドサクサに紛れて甘粕に殺されたのだが、栄を師と仰ぐ同志にとって遺児の境遇はずっと気にかかっていたようだ。
物語の前半は、ルイズ=留意子の少女時代が語られている。大正末期から昭和の初期にかけてアナキストの娘として生まれた留意子を、人々がどのようなバイアスをもって見ていたか、本書はそれを伝えようとしている。
初めのうちは両親が何者であったのか、まったく知らされずに育った彼女が、小学校3年生の頃には「両親は人々が平等に暮らせる社会を目指していた」ことを、すでに伝え聞いているのだ。
留意子は結婚した後、満州に移り住む。本書にはそこで留意子が目にした中国人・朝鮮人に対する差別、慰安婦の実態が書かれている。
満州の事例に限らず被害者側の苦しみと憤りを、武力を手にしている加害者側が受け止めていないのは、本当に情けないことだ。
留意子は戦時中4人の子を出産するが、少し話は飛んで戦後へ。平民新聞の第3回目が発刊されていたことをボクは本書で初めて知った。当然国賊扱いだった留意子の両親大杉栄と伊藤野枝も復権する。
留意子はみずからの不勉強を省みて、「エミール」を読み、2400円という高価な「大杉栄全集」を求める。
夫が(現)九州電力の労組で活躍した様子や勤め先の博多人形店の店主が筋金入りのアナキストで黒旗を掲げてメーデーに参加する様子などが描かれる。共産主義の赤旗は誰もがみんな知っているが、アナキズムの黒旗を知っている人は少なかろう。
そんな時勢の中、留意子は公民館主催の商業青年学級に関わり始めるが、デモや闘争の渦中に身を投じることはできなかった。
世間から大杉栄と伊藤野枝の娘であると見られていることが、ずっと足枷になって踏みとどまっていたのだ。
最後に留意子の両親(栄と野枝)の死因鑑定書が発見されたニュースから受けた衝撃を綴っている。
結局、栄の遺児、真子・笑子・留意子の3人は、思想家運動家として社会を変えようとはしなかった。留意子については朝鮮人被爆者の救援運動に関わった実績が唯一記録された履歴であります。
