オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

オヤジのあくび646

井上ひさし「四千万歩の男 忠敬の生き方」を読む

 


商家に養子に入り、傾いた店の経営を立て直し、村の政治にも力を発揮した50歳までの前半生。忠敬が江戸に出て天文学を学び、さらには日本全国の地図作成という大事業に挑むのは後半生のこと。定年を迎えたサラリーマン諸氏にとって、これからどう生きるか? お手本を示してくれるようであります。

しかしこの本の面白さは、伊能忠敬の偉さよりもむしろ井上ひさしのオタクっぷりにありそうです。遅筆で有名な著者は、脚本の設定をイメージするために手書きの現地地図を書いていたという。オクラホマ州ナダルコの地図、小林一茶が生活していた頃の江戸市中・・手書きの地図には国境や保護地域などの情報は書き込まない限り載っていない。その面白さを嬉々として語っています。

やがてこまつ座に縁の深い安野光雅さんとの対談となる。井上ひさしさんは九条の会の発起人の一人であり、いわゆる護憲派なのだが、自衛隊があって憲法九条があって、使い分けて共存していればよいと、その曖昧さを肯定している。安野さんも地図を語りながら、言葉が実体にはりつくまで大変であり、実体を言葉に合わせようとしはじめる危なさを指摘している。暗喩であるけれど思い当たる節がいくつも思い浮かんできます。

2024年、地図を覗きこまなくても、スマホがあればGoogleマップ、車に乗っていればカーナビが案内してくれる時代に私たちは生きています。ところが国土地理院の二万五千分の一地図を読めなければ場面があるのです。それは公立高校入試の社会科。なぜか標高差や地形を読み取る問題が出される。ボクは等高線が意外と存在感を示している気がしています。なぜなら伊能図もGoogleマップもカーナビも、結局は平面上の位置関係しかわからないので、たどり着いたらそこは急な坂なんてことがあるからです。

それにつけても四千万歩! またそれを丹念に追いかけた井上ひさしさんの仕事には脱帽であります。f:id:hoihoi1956:20240424050636j:image