日本古謡「さくら」
1 さくら さくら
のやまも さとも みわたすかぎり
かすみか くもか あさひに におう
さくら さくら はなざかり
2 さくら さくら
やよいの そらは みわたすかぎり
かすみか くもか においぞ いずる
いざや いざや みにゆかん
新しい教育基本法では、「我が国の伝統文化を愛する心情を培う」ことが目的に掲げられており、それに同調するかのように、筆者の勤務する学校でも、地域の方の協力を得ながら「和太鼓クラブ」が新たに設立している。
上に歌詞を掲げた「さくら」は、現在4年生の教材として、教科書に登場している。私が音楽専科をしていた頃は、音楽室に数竿しかない琴(箏)を並べて、お琴に親しむ教材にしていた。「七 七 八 七 七 八」とつまびく弦の番号が、記されている譜を見ながら「え〜と、次はどこだっけ?」と、たどたどしく琴を奏していた子ども達の姿が思い出される。
さて、この曲は、あまりにも有名で日本で教育を受けた人なら、おそらく誰もが口ずさめる歌なのだが、意外に素通りしている歌詞がある。
それは「あさひに におう」と「においぞ いずる」の二ヶ所に登場する「におい」なる言葉である。
ここで言う「におい」は、嗅覚を刺激する「におい」ではない。光り輝き視覚的に眩しい様子を「におう」「におい」という言葉で表しているのだ。
現代の日本語で「におう」という言葉が、どのような意味で使われているか?と言えば、それは、決して嗅覚的に快感を伴う状態ではないだろう。むしろよい「におい」は「香り」に取って代わられている有様だ。
いにしえの人々は、視覚的にとらえた美しさも「におい」と表現していたのだ。「さくら」を口ずさみながら言葉の変遷に思いを馳せるのも、一興と言うものだろう。