安西水丸「ちいさな城下町」を読む
村上市の(ぼくも大好きな)〆張鶴、行田市の足袋、栃木県壬生の干瓢、亀山市のローソク・・・その地方自慢の名産を紹介し、且つ食べ飲みながら、お城を訪ね歩く。城下町と言っても、本のタイトルにあるように訪ね歩く町は小さな藩だったところだ。だから殿様も改易や国替えでコロコロ入れ替わる。その結果、登場人物も歴史のヒダの中に隠れているような人が出てくる。いわゆる主演を張る英雄ではなくて、敵役だったり黒幕であったりするのだが、そういう役柄がなければ芝居が盛り上がらないだろう。
例えば、以下のような人々が本書に名を連ねる。
土浦市 武田武士=金丸惣蔵、
栃木県壬生 義経の従者? 金売り吉次、
天童市 吉田大八、
新宮市 水野忠央、
木更津市 脱藩藩主 林忠宗・・の面々である。
彼らの生涯を掴むためのおびただしい知識の集積は、安西さんが百科事典で有名な平凡社に勤めていたことを連想させる。
また同時に日の当たる場所で活躍し、歴史の教科書に燦然と名を輝かせている人よりも、地味な脇役に注目してしまう水丸さんの視点が私は好きだ。