オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

オヤジのあくび290

立松和平法隆寺智慧 永平寺の心」を読む

 


本のタイトルにある通り、法隆寺永平寺での体験が語られる。ありがたいのは、経文を作者が口語訳に直してくれていて、釈迦や聖徳太子の教えを読者にわかりやすく説いているところ。

前半は法隆寺での正月の体験談。僧衣に身を包み承仕となった作者の一日が夜明け前から順に紹介される。さすがに正月の夜明け前は文を読んでいるだけでも寒そうだ。般若心経のところでは、仏教の無や空を虚無的に勘違いすることの戒めを強調している。仏教とは、さとりに向かう生き方を積極的に人々に働きかける教えなのだ。

後半は、永平寺。実はオヤジのあくびには書かなかったけれど、和辻哲郎の「道元」を読んで私はかなり情けなくなってしまっていた。不立文字を何と心得ておるのか! と和辻に対して私は感じた。立松和平さんによるこの本の中にも、月を指差す人の手の例えが出て来る。手に注目していても月の美しさはわからない。それは経文や仏典の解釈を掘り下げこだわるのに似ていて、本質である「さとり」を目指す生き方に通じていないのだと。

永平寺での三泊四日の参禅を通して、坐禅に限らず人が生きて行く行為そのものが実は禅であり、同時に悟りであると語られる。ならばわざわざ永平寺まで出向いて禅を組むことはないじゃないか! とは思わない。道元の昔から禅を組む場所と時間を必要としてきた無数の人々とその状況が続いているのだから。