安部龍太郎「海の十字架」を読む1
書名にもなっている大村純忠の物語は、ポルトガルの交易とセットになったイエズス会の布教を、いかに自身に有利な方向に利用するか? 戦国時代ならではの駆け引き劇が読者を楽しませる。少々怪しげなバルトロメオが、ストーリーの仕掛け人として立ち回る。
結果として、なぜ長崎が国際港として開かれたのかを語る、さらりとした下げもよかった。
続いて世界遺産宗像大社の大宮司であった宗像家本家最後の当主である宗像氏貞の話。大内、大友、毛利のせめぎ合いの中で生き抜く術を探る様子が描かれている。
今川義元の進撃とリンクして、織田信長を討とうとした服部友貞の物語だ。力と知恵に勝る信長に敵愾心を抱くが、首尾よくいかなかったのは歴史が証明済み。ただ歴史の襞には有象無象の悔し涙を呑んだ強者たちが大勢いるのだろう。