安部龍太郎「海の十字架」を読む2
足利将軍による治世を終わらせたのは織田信長であるが、信長が上洛する前の洛中の支配者は三好長慶であり松永弾正であった。「蛍と水草」はその内部抗争を描いている。
三好兄弟が次から次へと銃撃され、全て松永弾正の思うがままになっていく様子に救いはない。作者は三好長慶と冬康が交わした連歌にわずかな一滴の潤いを求めたのだろうか?
続く話は、大浦為信(津軽為信)、弘前藩の初代藩主。まだ津軽藩の一家臣に過ぎなかった為信が、畿内の信長の活躍に触発され津軽の信長を目指す話。彼の活躍以降、現在の青森県は南部藩の支配下である東部と弘前藩の西部に分かれてしまった。その蟠り(わだかまり)は現在にも時折現れると言う。
本書の最後は、長尾景虎。言うまでもなく後の上杉謙信であり、ボクが一番好きな戦国大名です。もう一つ景虎が佐渡に渡る時に寺泊という地名が出ます。実は私のご先祖さまは寺泊におりまして、私の父も彼の地で育ったのです。
話は佐渡に長尾景虎が滞在していたという設定で描かれ、ご当地の本間家を召し抱え銀山開発や鉄砲の入手経路に目処をつけるという仕立てになっている。上杉謙信の経済的な基盤は春日山から近い直江津港での交易にあると思っていたけど、このような仮説もとても面白いと思いました。